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幻花凍蜜社

 

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2024.05.05 (Sun)
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COMIC CITY SPARK 10参加します

御無沙汰しております。

10/4COMIC CITY SPARK 10ならびに跡日プチオンリー『跡日浪漫』様に参加予定です。

新刊として、「余韻」シリーズの再録本と、「誰もいない玉座Ⅲ」、大正浪漫に絡めた書き下ろし1冊を予定しています。

「誰もいない玉座Ⅱ」、「身を措置す」、「誰もいない玉座Ⅰ」、「日吉の奴がなんだかおかしい」も既刊があるので持参予定です。

スペースno.等の詳細は後日となります。
取り急ぎお知らせまで。


以下書き下ろし新刊サンプル
戦争の残酷表現あり。
キャラは死にませんがモブは死んでいます。

「頭下げろヒヨッコ、死ぬぞ!」
 向日少尉が俺の頭を押し下げると、近くで土の爆ぜる音がした。
 飛び散った地面の欠片が音を立てて俺達の上に降り注ぐ。
「……ヒヨッコ、ヘーキか?」
「ええ」
 俺は、草叢の向こうを薄目で睨んだ。
 灌木や塹壕といった適度な遮蔽物。積み上げられた古い石組み。いつの間にか迷い込んだここはいかにもな古戦場だ。
 茹だるような暑さに汗が滲む。此方を向いた銃口は暑さに歪む空気の向こうで澱んだ鈍い光を放っていて、ひたひたと死の気配が自分に迫り来る事を実感して寒くもないのに全身に鳥肌が立つ。
「……囲まれていますね」
「そうっぽいな」
 まだ、相手の顔がだれと分からない程度の距離はある。
 風で動いた草の上に、銃弾が降り注いだ。
 走って逃げ出したいのを必死に堪えながら、俺と向日さんは構えられたままの銃口に見つからないようにと祈りながら移動した。
 先ほどまでうざったいと思っていた、膝が埋まるほどに鬱陶しく延びた雑草が今はありがたい。額を頬を伝う汗を拭うこともできないまま、じりじりと俺達は蛞蝓のような速度で土の上を這う。
 大きく動けば、再び銃弾が雨霰と降り注ぐことは間違いない。せめて顔に張り付く不快な感触を払いたかったが、俺達を探す銃口は、そんな動きをすら許してくれそうにはなかった。
「……クソクソ、這い蹲るのは趣味じゃねぇ!」
 押し殺した声で、向日さんが悪態をついた。
 夏の強い日差しと、汚れやすい軍服にしっかりと染み込んだ泥と草の汁が、うまい具合に俺たちをカモフラージュしてくれていた。
 故郷では見ないような、足の長い大きな虫が、俺たちの横をのそりと歩いている。飛ぶな、と、祈りながら、俺は敵影へ目を凝らした。
「……8、いや、9人ですね」
 大きな目の片方を血の滲む眼帯で隠して、向日さんは弾幕の途切れた沈黙の中、俺にひそひそと尋ねた。
「おいヒヨッコ。これ、塹壕じゃねぇ?」
 深い草の中に隠れるように、古い塹壕が掘られていた。歓喜の奇声を上げたくなるのを堪えて、細心の注意を払いながらそっとそこに転がり込む。
 その動きに俺たちのいた草むらが揺れたのか、銃弾が頭の上を通り過ぎていったのを見て、ほっと息を吐く。
「ヒヨッコ。これ、どこまで続いてる?」
「……そう長くはありませんね。こちらはすぐ行き止まりだ」
「さっさと行くな。この塹壕の中に地雷がない保証だってねぇんだからな?」
 向日さんは残りの弾倉を数えて舌打ちした。どうやら余裕はないらしい。
「今後も使うかもしれない場所に、地雷なんて仕込みやしないと思いますけどね。俺が読んだ資料によれば、この辺り一帯は何度もウチと連中とで取り取られしてきた年期の入った戦場らしいですから、自分たちがここにもぐり込む可能性は少なくはないんですよ。それよりも、この辺りは毒蛇が少なくありません。鎌首を持ち上げる蛇がいたらそいつはすぐに殺して下さい。噛まれたら死にますよ」
 初めての戦場にしては我ながら落ち着いた状況分析が出来ていると、そう思った。向日さんは瞼を切っていて、得意の攪乱戦闘がやれるような状況じゃない。そういう戦法は接近戦で、きちんと敵味方が把握できるような状態でやるものだ。
 なにより俺よりも小さな体の先輩は、たった二人で部隊から切り離されてしまったことに、すっかり悄げてしまっているらしかった。
 近くに味方の気配はなく、威力偵察中の分隊に銃撃されて、かなり絶望的な状況だ。
「降伏の白旗振りますか?」
「降伏して命を取られねー保証はねぇんだよ」
「じゃあ、その辺から目隠しになりそうなものをかき集めてきて下さいよ」
 俺は装備の中に入っていたスコップで、塹壕の土止めの板を叩き壊した。
「何する気だ」
「銃眼にします。目立つように塹壕の上に並べて下さい」
 元々の目隠しにと盛り上げた土の合間に打ち壊した板切れを並べ、丈夫そうな雑草を使って適当に縛り付けた。そうして、俺自身はその板の目隠しとは反対側の方に身を伏せる。
「おいおい、撃つ気かよ」
「小隊までの人数はいないように見えます。しかもあいつらは威力偵察の連中で、すぐに増援もなさそうです。なら、分散した分隊程度の連中がこの辺りをうろついている可能性が高い。ほかの分隊に俺達のことが伝わる前に、全滅させた方がいいでしょう。それに奴らを殺せば馬が手に入りそうですよ」
 息を殺して、震える手に力を込めた。
 俺の位置からは、班長らしき男の横顔が見えている。
 二人の兵士に前を歩かせているが、馬に乗っている班長はいい的で、兵士たちは何の遮蔽にもなっていない。
――今時、騎馬兵とは時代錯誤にも程があるな。
 引き金を引いた瞬間、目が合った。だから、俺の打った銃弾で、頭の半分が吹っ飛ぶ所を見てしまった。
 三発打って、すぐに塹壕の中にかがみ込む。吐き気を必死で堪える俺の所まで、響く混乱した声が届く。ダミーの即席銃眼が吹っ飛ぶ所が見えた。
 眼を血走らせた男が駆け寄ってきて、塹壕の中に飛び降りてきたのを撃った。
 教練通り、体に二発、頭に一発。
 塹壕の上から俺に銃口を向けた男は、向日さんが顎を吹っ飛ばしてくれた。
 俺は、頭の上から降ってきた血と人体の部品に、訳の分からない悲鳴を上げてしまっていた。
 新手が降りてきて、向日さんが銃から手を離してスコップを振る。
「日吉、撃て!」
 押し殺した声で受けた指示に指が反応した。血しぶきが飛んで、奇声と銃声が上がる。腕が焼けるように熱くなった。
 銃を取り落とした相手が銃剣を着けて突撃してくる。俺の体は反射的に銃を捨てて相手をブン投げていた。寝転がった相手の止めを向日さんが刺す。
 何人だ。残りは。俺達の前で死んだのは、これで何人だ。
 一桁の計算の筈なのに、数が数えられない。震えが止まらない。ただ、ぴくぴくと痙攣する目の前の肉片に、胃の中にあったものすべてを吐き出していた。
――やばい、死ぬ。
 まだ残りがいるはずだと、それだけは分かっていた。
 ガサガサと草を踏む音が背後を移動している。
 早く銃を持って移動しないと死ぬ。こいつらみたいに。
 なのに、涙と鼻水と嘔吐物が、俺を死体共の真ん中から動かそうとしなかった。体中が震えて、痙攣して、動けなかった。
 草を踏む音がすぐ側だ。
 向日さんが素早く目の前の死体の下に身を隠し、銃を構える。
 誰かが、近づいてくる。動けない。向日さんと相手と、どっちが引き金を引くのが早いか、分からない。
 間近で銃声がした。間違いない。俺は死ぬ。
――ワン!
 草叢から顔を出したのは、犬だった。
 よく手入れされた、毛足の長い、戦場にはとても似合わない――軍用犬。
 尻尾を振りながら、マルガレーテが俺の顔を舐めた。
 全身から、力が抜けた。
「……なかなかの状況じゃねぇか」
 拳銃から一筋の煙を立ち上らせて――跡部少佐が、そこに、いた。
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2015.08.16 (Sun)
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