跡日がいちゃいちゃしてるだけ(※事後注意)
跡部さんが、俺の背中に指先で触れている。
「ん……」
眠い俺は生返事をするのが精一杯だ。
何故か、性行為の後は眠くなる。
単純に運動量の問題か、体に無理を強いて体力を使うせいなのか、それとも血液から出来ているという精液の消費に原因があるのか、そこの所は調べたことがないからよくは分からない。
今日はやけに眠くて、体を洗ったあと着替えるのすら面倒で、雑に体を拭いてバスローブだけを羽織って跡部さんのベッドに潜り込んだ。
ああ。
そういえば、肩が剥き出しになっている。
腰紐を結んだ覚えがないから、ベッドに潜り込んだ勢いで脱げたのか。
跡部さんのベッドのシーツは贅沢にもシルクが使われていて、行為の最中に湿気を吸うとベタベタと肌を舐めるように張り付いて来る癖に、乾いた肌に触れればするりと滑る感触が優しくて、この絹の繭の中で眠るのはさぞや心地いいだろうと思わせる。
夏は涼しくて冬は暖かくて、疲れた体を慰めるようなすべらかさがいい。
だから俺は早々に、纏っていたバスローブをベッドの中で脱ぎ捨ててしまって。
その俺の背中を、跡部さんが指でつついている。
「ここと」
首の右側、少し下。
「ここと」
左の肩甲骨の上。
「ここ」
左の、脇の下の、もう少し下。
跡部さんの指がその三か所に、何度も触れている。
そして、指でつぅ、と線を引いて。
その感触に寝返りを打とうとしたら、腕を掴まれた。
「なんですか、一体。くすぐったいですよ」
唸った俺の頭を、動物を宥めるように跡部さんが撫でる。
大きくて暖かい手に頭を包まれると、何故か俺は、不満を唸るのを止めてしまう。
「星座だな」
「……星座?」
「星がある」
跡部さんの指がもう一度、全く同じ三か所に触れる。
「日吉の、背中の星だ」
この人のすることは時々意味が分からない。
俺は背中を丸めたまま、跡部さんが触れてくる指を、身を捩って振り払おうとした。
けれど、それは僅かな身じろぎにしかならなかったようで、跡部さんの手には俺の背中への悪戯を止める気配がない。
「くすぐったい……、それ、やめて……ください……」
俺の意識は今にも落ちそうだ。
いや、もう落ちるはずの俺の意識を、跡部さんが指一本でこちらに繋いでいる。
「ねむいんです、あとべさん、さわらないで、たのみますから」
そう言ってやったら、跡部さんが俺の背中の方にするりと入って来た感触があった。
今度は、同じ場所に、唇が触れる。
こそばゆい感触は唇だけじゃなくて。
俺の背中に掛かる跡部さんの吐息だとか、鼻の先の感触だとか、肌に触れる温かい手だとか、そんなものまで――。
俺の背中の星座を辿っている跡部さんの笑い顔を想像してみて、俺は、星の正体に気付く。
* * * * *
くう、と、寝息を立て始めた日吉の髪を撫でてやったが反応はねぇ。
いつも布団に埋まって眠る癖に、それが叶わなかったせいか、布団をぎゅうぎゅうと抱きしめるようにして寝ていやがる。
日吉の背中のほくろを唇で辿りながら、俺以外にコレを把握している奴なんていないだろうと一人ほくそ笑む。
いや、実際、部活の連中は着替えの時にでも目にしていやがるだろうが、それでも、コイツのほくろに唇で触れた事があるのは俺だけに違いない。
ああ、もうひとつ見つけた。
右の腰の少し下。
普段なら下着に隠れる場所で、自分じゃ見えねぇ場所だから、コイツを知っているのは俺だけだろう。
俺しか知らない星へ。
日吉が起きねぇように、ひとつ、口づけを落とす。
「テメーの背中のほくろの数、後で教えてやるぜ?」
くく、と笑う俺の声は日吉に聞こえてはいねぇだろうが、日吉がうっすら不満げに唸って、もぞもぞと布団に沈み込む。
肩が冷えちまったか。
左の首の後ろに唇で触れて、分かりにくいように跡を残す。
これが、本当の星になればいいと思いながら。
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